私ってもしかして有名人なの?

私はスウだ。不動産投資をするためセミナーに参加してる。
今からその説明を聞くところ。
「みなさんはなぜ株式やFXに手を出さないのですか?」
講師が言う。
「まずFXですが、レバレッジをかけて短期売買を繰り返すと大損します」
みんなウンザリした顔して聞いている。私もそうだ。
「次に株式ですが、この10年で株価は上がりまくりました。しかし今はどうでしょうか? 下がりっぱなしでしょう。つまり株式投資はもうダメなんです」
会場がざわつく。
「ではこれからどうすればいいのか? 答えはこれです!」
スクリーンには『不動産投資』の文字が出た。
「そう! 時代は不動産投資なんですよ! 今や世界人口の70%以上がマンションに住んでいます。つまりあなたにもチャンスがあるのです!」
そして資料を配られる。
「みなさんご存知のように、日本は現在不景気です。だからといって悲観する必要はまったくありません。なぜなら、これから3年間は好景気になるからです」
おおっと声が上がる。
「理由はいくつかありますが、その一つが人口減少問題ですね。現在日本の人口は1億2千万ほどです。これが2040年には7500万人まで減ります。すると何が起こるか? 労働力不足になりますよね。そうなると企業は人手を確保するため給料を上げざるを得ません。当然消費も増えますし、お金は回っていきます」
なるほど……。確かに理屈は合ってる気がする。
でもなんか納得いかないんだよね。そんなうまい話あるわけないじゃんって感じ。
「今後しばらくは不動産バブルの時代が訪れると言ってもいいと思いますよ」
また会場が盛り上がる。
「さて次は収益物件についての説明です。こちらの資料を見てください」
そこには『利回り10%以上』とか『築浅』『駅近』などの文字が並ぶ。
「これらの条件を満たした物件なら、年間1000万円以上の家賃収入が見込めます。これくらいになると、税金を差し引いても十分な利益が残るようになりますね。これを繰り返していけば、いつの間にか資産が増えていきます。ちなみに私が購入した物件はこんな感じですよ」
写真には綺麗な新築ワンルームマンションが写っていた。
「これは築4年の物件ですが、都内一等地でこの価格です。普通に買ったら3000万近くかかりますよ。もちろん立地によりますけどね」
みんな目を輝かせている。
私はいまいちピンと来なかった。
その後、いくつかの事例が発表されていく。
どれもこれも凄いものばかりだった。
特に気になったのは『サブリース契約』という手法だった。
これは簡単に説明すると、管理会社に月々一定の賃料を払う代わりに、毎月安定した賃貸収入が得られるようになるらしい。
空室リスクがなくなるため、長期的に見ればかなり得をするとのこと。
「ただしデメリットとして、建物の老朽化などを理由に、強制的に解約されてしまうケースがあることです。そのため定期的に修繕費が必要になる場合もあります。なので、しっかりした管理会社を選ぶ必要がありますね」
なるほど……。いろいろ難しいみたいだ。
まあ、とりあえず今日はこの辺にしておこうかな。
「それでは本日の講義を終わりたいと思います。次回までに必ず資料を読んできてくださいね」
よし! 帰ろう! 私は荷物をまとめて席を立った。
すると後ろから肩を叩かれた。振り返ると、そこにはイケメンの男が立っていた。
「あの……スウちゃんだよな?」
誰だろう? 見たことないんだけど……。
「えーっと……」
「ああ、悪い。俺の名前はタクヤっていうんだ。よろしく」
「はい。どうも初めまして」
なんだコイツ……。馴れ馴れしいぞ。
「突然だけど、この後時間あるかい?」
「はい?」
「よかったら一緒にご飯食べようぜ。実は友達が少なくてさ。一人で食べるの寂しかったんだよ」
「いえ結構です」
「即答!? なんで!?」
「ナンパなら他当たってもらえませんかね」
「違うよ! ただ飯食いたかっただけ!」
必死に訴えてくる男。
う~ん。怪しいなぁ。
「じゃあ聞きますけど、どうして私の名前を知ってたんですか?」
「スウちゃんが有名だからだよ」
「私有名人じゃないですよ」
「うんこ好きで有名ですよ」
………………。
「それで、私とご飯を食べたいと?」
「そうそう。お願いします!」
ふむ……。まあいいか。暇だし付き合ってあげよう。
「いいですよ。どこ行きます?」
「マジで! ありがとう! やった!」
「ただ、奢りませんからね」
「わかってるよ。割り勘で行こう」
というわけで、私たちは近くの居酒屋に入った。
注文した料理が運ばれてきたところで自己紹介が始まった。
まずは私から名乗ることにした。
「改めまして、私の名はスウ。大学生です。趣味は株とFXと不動産投資。好きなものはうんこです」
「おいコラ」
ツッコミが入る。
「なんです? 何か間違ってましたか?」
「間違ってはないけど、うんこの下りいるか? 普通に趣味とか食べ物の話だけでいいんじゃねえの? あとうんこの話はやめろ」
「そう言われても、私はこれが生きがいですからね」
「わかったよ。もう何も言わない」
男は諦めたように言う。
私は満足して食事を始めた。
「俺はタクヤ。一応社会人やってる。仕事は営業マンだ」
「へぇ……。どんなことをしてるんですか?」
「主に不動産関係かな。賃貸物件を紹介したりする仕事をしている」
「なるほど……。でも不動産って大変でしょう。色々と覚えること多そうだし」
「そうなんだよ。正直しんどいよ。でもやり甲斐はあるよ。やっぱり人と関わる仕事って楽しいし」
「ほほう。なかなか良い心がけですね」
「だろ。まあそんな感じで毎日頑張ってるわけさ」
それからしばらく雑談が続いた。
「おっと、そろそろ出ようぜ」
「そうですね。会計は別々ということでよろしいでしょうか?」
「いや一緒でいいよ。誘ったのは俺の方なんだから」
「 ありがとうございます」
私たちは店を出て帰路についた。
「今日は楽しかったよ。ありがとな」
「こちらこそご馳走様です」
「また機会があったら遊ぼうぜ」
「はい。また今度」
私はタクヤと別れて家に帰った。
「ただいまー」
誰もいない部屋に向かって挨拶する。
私はシャワーを浴びてから、ベッドの上に寝転がった。
『あの人、何者だったんだろう?』
ふと疑問に思った。
私みたいな女に絡んでくるなんて、物好きだなぁ。
『なんかちょっと嬉しかったかも』
こうして一日が終わった。

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